[ShimaSen] 「今度はもう、忘れないでね」と彼は笑った

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Author: 伯川

Link: https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10771566

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朝9時30分、
ピンポーンと来客を告げる音に何か頼んだかなと不思議に思いながら玄関モニターを覗いた。

「...俺、まだ寝ぼけてるのか...?」

平日金曜日...俺にとってはオフだが世間的には春休み前の他ただの出勤日、ましてや東京の俺の家のモニターに映るはずのない人がそこには立っていた。

「志麻くんーいますかー?」

「...センラさん、やんな?」

ガチャりとドアを開けると、黒いスーツ姿の彼が立っていた。

「志麻くん、


暫くかまって貰えませんか?」



「...え?」







「で、センラさんはどうしてここに?」

とりあえず家の中に入ってもらい、コーヒーを準備する。

他のメンバーだったら如何してこんな時間から来るんだよと怒っている所だが、
センラさんが来る事には全く不満はないし、寧ろまだ数回しか来たことがないであろう珍しい来客にただ驚くだけだった。

「実はお参りで東京に来てまして。
会社からも暫く有給を貰ったから志麻くんの家に遊びに行こうかと。」

そう言いながら俺を見るセンラさんは
「やっぱりコーヒーはホットが美味しいですよね」だなんて言いながらコーヒーを煎れる俺を見ていた。

ふわりと香るドームにお湯をゆっくりと注ぎ
俺の常用カップと同デザインの、淡黄色の来客用マグカップをコーヒーで満たしていく

彼は普段ブラックを飲んでいたから砂糖は入れないはず...

「どうぞ」
「ありがとう志麻くん」

そう言って笑ったセンラさんは、コーヒーをそっと飲むと、少し複雑そうな顔をしていた。

ブラックが好きな彼でも少し苦すぎたのだろうか?
ミルクか砂糖を足すかと聞くと今はこのぐらいが十分だと微笑み、コクリと飲み干した



「で、センラさんはいつまでこっちに入れるん? 来週の練習の時はー?」
有給を貰ったからとはいえ、普段から忙しそうな彼の事だ。

若しかしたら明日帰ると言い出すのではと少し心配になりながら聞くと

「あっそれがですね、かなり溜まってた有給消化と春休みで、3週間ほど休みを取れたんです!」

「3週間!! 良かった、じゃあいっぱい飲みに行こうな!」

珍しく長期休暇を貰い、嬉しそうに笑うセンラさんにつられ俺も笑った。
若しかしたらこの機にもっと話をしたり、遊びに行ったり出来るのではと俺もただただ嬉しかった。

センラさんは俺にとって友達以上だけど、相棒と呼ぶには少し遠くて...だから「仲間」と形容していたが

もっと話して、近づけるかもしれない
そう思いながらワクワクしていた。

「そう言えばセンラさん、ホテルとかもうとってるん?」

「あーそれがまだでして...どうしようかなと」

長期休暇にしては身軽すぎる格好をみて、ホテル等に預けてきたのかと思っていたがそうでは無いらしい

一応服は何着か持ってきてるんですけどねと、スーツとセットかのように身につけていたビジネススーツケースには服と小物が入っていた。

だが

「...なあセンラさん、スーツ多すぎへん?」
「そーですか?」
「いやおかしいやろその量」

そのスーツケースの中は半分ぐらいが同じような黒いスーツだった。
彼は某番組のハンターか、それともどっかの情報機関の秘密組織所属か...
どっちも似合いそうだなと考えていると、話が随分と逸れてしまっている事に気が付き、慌てて元に戻す。

「そのホテルやけどさー、
3週間もホテルやと高いし俺んち泊まらへん?」

「えっ?! えっと...」

「あっいやホテルの方が良いなら全然大丈夫やねんけど、センラさん気使うかもしれんし」

「あっいや、めっちゃありがたいです!! けど志麻くん大丈夫なんですか...?」

「おう、そこは気にせんで! センラさんと晩酌出来るなら全く問題なし!!笑」

俺はパーソナルスペースは広い方だけれども、彼には、センラさんには何故かその中に入る事を許せてしまった

「じゃあ、お邪魔したいです!」
「おう!! じゃあとりあえず服着替え〜
ずっとスーツやと疲れるやろ?笑」

そうですね! と言ってスーツからラフな格好を取り出した彼は 洗面台お借りします とだけ言ってささっと部屋を後にした。

そう言えば洗面台の場所分かりにくいけど分かるかなと心配なったが、声をかける前に彼は既に着替え終わっていた。

スーツの着替え早すぎだろ。
流石現役サラリーマンと言うべきか



それから2人での生活が始まった。

センラさんと出かけて、

ゲームをして、

ゆったりコーヒーを飲んで、

酒飲んで、

笑って、

歌って、

眠って


俺の部屋でセンラさんが笑顔でいる、
何処かほっとする、懐かしさを感じたその日々は

俺にとって物凄く幸せな時間だった。










この生活を初めて分かったことが幾つかある

1つ目はセンラさんは朝が早いこと

深夜までキャスをやっている割には、起床は朝の7時かそれより前、俺が起きた頃にはもう既に起きている

そして大体の日はエプロンを付けて
「志麻くんおはよう! ご飯できてますよー」
と声をかけてくれる

一瞬、あっ俺できる嫁を貰ったのかと錯覚してしまうほどにエプロン姿で笑うセンラさんは可愛くて、しかもご飯はとっても美味しかった。

なんだか新婚さんみたいな気分だ

それから早朝は時折外に出かけているらしく、起きて居ないと思えば、玄関からスーツ姿で出てくる事がある。
だがすぐ帰ってくるし、特に何も持たずに出かけていくから仕事をしている訳では無さそうで、
有給休暇中とはいえ、若しかしたら仕事の電話が来ているのかもしれない。

だからといって朝だけスーツ姿なのは変わってるなと思ったが、まあこれがセンラさんスタイルなんだと気にしないでいた。

今日もそう、

「志麻くんおはよう! ご飯今から作るのでちょっと待っててください!!」

「おはよーセンラさん、朝ごはん志麻も手伝うから大丈夫やでー。
スーツ着替えておいで。」

「あっありがとう!着替えてきます!!」

パタパタとかけるセンラさんを可愛いなーと見ながら卵を焼いていた


「あっやばい焦げる!!!!」

ぼーっと考えていたら目玉焼きの白身の部分がフツフツとしていた。
危ない危ない。




それから2つ目はセンラさんが気遣い屋さんだと言うこと

さっきの朝ごはんとかもそうだが
「ただで泊めてもらうのは申し訳ない」と、
掃除や洗濯などの家事をしてくれている。

これじゃあ休暇にならないし、志麻は全然大丈夫やで! と言ったのだが、彼も彼で全く譲ってくれなかったので、今は2人でしている。

オチ担当で常に周りに気配ってくれる、
そんなセンラさんだから気遣いやなのはある程度把握していたが、知らなかった事もいくつかあった。

「志麻くん!! 大丈夫ですか? 薬いります? 横になりますか?!」

「いやいや、ちょっと咳き込んだだけやから大丈夫やで!!」

特に驚いたのはは俺が少しでも調子が悪そうだとかなり気を使ってくれる事。
ほんの些細なことでさえ顔を真っ青にして、心配してくれる.....
彼自身が調子が悪い時には全く発揮されず寧ろ無茶するというのに。

本当優しい人だ。

そう言えば、俺が何回か入院することになった時もセンラさんはよく尋ねてきてくれていた。
1年半前に緊急入院した時には
仕事があったはずなのに、終わってから深夜に車を飛ばして来てくれた。

ずっと動けなかった俺に治ったらここ行きましょう、あれしましょうと楽しい話をして
付き添って笑顔でいてくれた。

あともう1つ、丁度1年ほど前に横断橋の階段から落ちた時もセンラさんはずっと病室にいてくれた。
ただあの時は
「センラさん...ずっと泣いてたよな」
外傷はほぼ無く、ただ打ち所が悪くて少しの期間だけ記憶が曖昧になっていた...らしい。 けどセンラさんや仲間を忘れていたわけでも、手術をする程の大怪我を負った訳でもないのに...
「まーしー、早く元気になってな」

いつも笑顔で支えてくれる彼が泣くという、珍しい瞬間だった。


最後に3つ目、センラさんの趣味がちょっと意外な事。

俺と出かける時何処に出かけようかと話していて、大体はこっちに来る事が珍しい彼に合わせようとしていたのだが

「じゃあセンラ、このお店行きたいです!」

「おう! ってえ、いいけどそこ激甘スイーツのお店やで?!」

センラさんの趣味が最近可愛い。

とはいっても急に甘党になった訳でもかわいいものが好きになった訳でもないが
選ぶ店はどれも可愛らしかった

「あっ、ここのチーズケーキ美味い」

「んーこのガトーショコラ、カカオがめっちゃ効いてて美味しいです!!

志麻くんもはい、どうぞーー」

何事もないかのようにフォークを口元に持ってくるから、まあ俺も普通に食べてるけど



「これって、デートだよな...」
「...? どうしました?」
「いや、なんでもないよ、次どこ行こっか」

今はそんな甘い時間が楽しいから流されてしまおう、そう思い彼の隣を歩いた







「「いただきます!」」

センラさんとの生活はただただ幸せだった。

彼がやってきた日に使った黄色いマグカップは彼専用になり、食後には紫と2つ並んで食洗機に入れられた。

「あーもう、ほんまセンラさん嫁に欲しい...」
「ふふっなんですかそれ」

そう笑うセンラさんがただ可愛くて、愛しくて... ずっとこの生活が、彼が隣にいることが終わらなければ良いのにと心から思った。

「あー割と本気やで、センラさんが男同志やし無理やっていうんやったら」
「言うんやったら...?」

「振り向かせたるから覚悟しとき」

そういうとセンラさんは真っ赤になって俯いた
「せっせんらさん...?」

「...なに?」

「顔真っ赤やけど、、」

「だ、れのせいやと!!」

「志麻のせいやね... なぁセンラさん、そんな顔されたら本気にするけど?」

そう言うと彼は少し目を潤ませながら、俺に縋り見つめてきた。

「志麻くんは... ほんまにセンラでええんですか?」

「ええよ、寧ろセンラさんしかいらん。



俺はセンラさんが好きやから」

そう言うとまた顔を真っ赤にさせて


「センラも...です。」

「えっ」

「センラも、センラも志麻くんの事



好きです。」

ボロボロと涙を流しながら笑うから、もう離さないと言うように抱きしめた

俺はセンラさんの涙が少しだけ苦手だ。

儚くて、壊れてしまいそうで。

だから、笑顔になって欲しくて

そっと口付けた



ふわりと広がったコーヒーの味は、
少しだけ苦かった。








付き合う事になってからも俺らの生活は変わらなかった
ただ一つ

「センラさんほんま可愛い、はよ嫁に来て」

「はいはい、昼ご飯冷めちゃうからはよ食べよー」

「サラッと流してるつもりかもやけど、耳真っ赤やで」

「〜っ しゃあないやろ?! 志麻くんが口説くからやん!!」

「で、嫁に来てくれる?」

「かっ考えときます!!」

言葉だけは少しだけ甘くなって、蕩けそうだった


それから

「あっしまった、明日の分のスーツが...」

センラさんがスーツで朝出かける日が日に日に増えた。
家洗いできるそのスーツが洗濯カゴに入れられていることが多くなった、気がする...

「そう言えばいっつも朝、どこいっとるん?」

良く考えれば週に二三回は洗濯をしているのに、数枚あるスーツが全部洗濯中なのは不思議でしかたがない。

そっと彼の方を向いて聞くと
「...ここに来た時言ったでしょ、お参りに来たって」

「えっ ああ、それはてっきり初日に行ってきたのかと」

なら、彼は毎朝ずっとお参りに行っているのだろうか

しかもスーツで

...センラさんの親戚は京都の方で、こっちにはいなかったはずだ。

何処に?

何の為に?

だが聞くにもセンラさんの顔はどこか寂しげで...俺には踏み込む勇気が無かった

ただ

「今度さ...そのお参り、俺も連れてってくれへん?」

「えっ...ええですよ。今度一緒に行きましょうか。」


そう約束した。








「浦島坂田船、新春飲み会ーーーー!!!!」

「「「いえーーーーい」」」

今日はうらさかの2人も誘って飲みに来ている。
2人で飲むのも物凄く楽しいが、4人となると騒がしさが数倍にもなってこれはこれで楽しい。

し「ちなみに今日はうらさかの2人はお酒のむん?」

う「ちょっとだけな!」

さ「僕もーー」

せ「はいはい、3人とも飲みすぎんでねー、特に志麻くん!!」

し「えっ俺?! ちょセンラさーーん」

ちなみに2人にはまだ付き合った事を言っていない...が、若しかしたら2人は、特に察しの早いリーダーは気づいているかもしれない。

わーわー飲みあってるうちに、そう言えば最近こうやって4人とも飲むことは少なかったし、俺も何故か暫くセーブしろと言われてたなと思い出した。

し「それにしても久々やねーー」

せ「4人で集まって飲み明かすってライブ終わりぐらいやもんなー」

さ「せやねー、ちゃんと飲むのはあの日以来ちゃう?」

う「...だなー去年の新春会以来俺らもかなり慎重になってたしな。」

去年の新春飲み会...そんなものもあったなと思い出そうとするがいまいち記憶がない

し「あれっ、去年新春飲み会やったっけ?」

さ 「はぁ?! やったやんか!! ってあっ...
あんま思い出したくないよな、ごめん」

し「えっ何のこと?」

不思議に思っていると、うらたさんがそっと口を開いた。

う「まーしー、丁度1年前事故にあっただろ? それが飲み会の帰りだよ。」

し「えっ、事故?」

さ「事故っていうか、階段の踏みはずし! 橋から落ちたって...」

ああ、あのセンラさんが大泣きした時か。
俺はてっきりまた緊急入院の時のように、夜に来てくれたと思っていたが彼もあの日東京にいたのか
少しだけ違和感があった記憶が解けていくような気がした。

し「あーあの時のセンラさん凄かったよなー」

せ「へ? 志麻くん覚えとるんですか...?」

し「おー、確かあの時センラさん大泣きしとったやろ?」

し「あーそうでしたね...」

恥ずかしいわぁと言って視線を落としたセンラさんは恥ずかしいと言うよりどちらかと言うと辛そうだった。

この話は触れない方が良いのだろうか?

それからは別の話がまた始まって気づけば次の日になっていた。 休日の気楽な飲みはほんまやばいと思う、これでもセーブしてたものの結構酔っていた。

せ「俺、ちょっと御手洗行ってきます」
う「あっ俺もー
そろそろここ出るだろ?2人は大丈夫か?」

ぱっと時計を見ると既に4、5時間ほど経っていてかなり飲んでいたことに気づいた

俺と坂田は大丈夫と返答し、帰りの電車等を調べ始めた

「あーどーしよ、坂田終点ありそう?」

「多分ないなー、僕らもタクシーにするな」

「えっ僕らもって、俺とセンラさん徒歩10分も無いし歩こうかと思っててんけど...」

元々ここは俺の家から近いって事で選んでくれたし、行きも歩いてきたからそのまま帰るつもりだったが...

「はぁ? まーしーまたセンラ泣かせる気?」

「...え?」

思わぬ返事にびっくりした。

それは一体どういう事だろうか

「まーしーはあんま覚えてないかもやけど...1年前のこの飲み会の後に酔って階段から落ちたんやで。
そんで隣には泊まりに来てたセンラがおった。








センラ救急車呼んだ後、ずっと僕らに電話かけて泣きながら謝ってきてたんよ

隣にいたのに、助けてあげられなくてごめんなさいって」

あぁ、彼はずっとこの事を覚えていたのだろうか? 1人で抱えて、苦しんで、泣いて
それでも何事も無かったかのように隣で笑っていてくれたのだろうか

し「センラさん...」

せ「志麻くんどーしたん?」

し「センラさん?!」

せ「そうやけど... うらたんもう出よっかって言ってるけど出れそう?」

し「ああ大丈夫やで!」

さ「タクシー2台呼んどいたよ! 僕とうらさんで帰るから、まーしーとセンラはもう一個の方乗ってなー」

せ「ああ、 ...ありがとう。」

少しだけ影のある笑顔にやっぱり彼はまだあの日の事を
俺が忘れた日のことを覚えているのだなと確信した。

う「お前ら出るぞーー」

「「「はーーい」」」

パタンっ
タクシーに乗り込み無事に家の前に着いた俺らは
家までのほんの少しの道をゆっくり歩いた。

二人ともお酒を煽っていたにも関わらず、足元はしっかりしていた。








ガチャリ

家のドアを締めるとひと安心したセンラさんが突然力が抜けたかのようにしゃがみ出した

「志麻くん...おかえり」

「...ただいま。 センラさんもおかえり」

そう返すと「無事帰ってこれた」と力なく笑い、俯いてしまった。
足は震えていて、立つ気力さえもないように見えた。

彼は、センラさんは一体何にこんなにも怯えているのだろうか?

彼が落ち着いたらちゃんと話を聞こう、そう思っていると

センラさんは唐突に告げた。

「...志麻くん、
センラは明後日で3週間やから明日家に帰りますね。

それから






























3週間、幸せな夢をありがとう。

別れてください」


「っ...なんでそんなこと言うんや?」

どうする事が正解なのか分からなかった。
苦しくて、今すぐ叫んでそんなの許すわけがないだろって言いたくて、でも
それはちがうと頭のどこかで警鈴を鳴らし、自分を抑えた

「センラさんは、
志麻と一緒にいるの楽しなかった? ほんまはしんどかった?」

「そんなわけないやろ。 すっごく楽しくて、幸せで、嬉しかったよ」

「じゃあ、

俺が信じられへん? 好きって言うの伝わってなかった?」

「伝わってた。 痛いほど、やっぱり志麻くんは志麻くんだなって... 沢山好きをくれてありがとう」

「ならどうして」

「...怖いんよ。










また、ひとりぼっちになるの」

そう言って1人苦しむ彼を前に何も出来なかった。
今は、今の何も知らない俺には
きっと抱きしめるのも笑顔にするのもきっと何の意味も成さない

そっとその場でしゃがみ、センラさんと視線を合わせると今にも泣きだしそうになっていた。
目を合わせること数秒、
何かを決めたかのように目を閉じ、再び開けた彼は言った。

「明日の朝、志麻くん早起きして貰えませんか?」

「...え?」

「お参り、 一緒に行こうって約束したじゃないですか」

そこでちゃんと話します。

そう言った彼と俺との間で、何かが動き出した気がした。









朝6時30分
黒いスーツを着たセンラさんと普段着を着た俺は家を出た
場所は









「ここって、俺が落ちた橋?」

「...そうやで」

俺の家から数分とかからない場所にある、小さな道の前だった。
お参りって、事故現場のお参りの事だったのか...
だがそれよりも気になったのは

「なあそのスーツさ、現場参りに着てきてるって事は

喪服の代わりやったんやろ...

俺は死んでないけど、如何してここに通ってるん?」

ただただ疑問だった。
いくら自分に責任があると思い込んでいても、死んでもいない人のお参りに喪服まで着て行くだろうか?

そう聞くと、センラさんは肩を震わせながら
そっと呟いた





「...死んじゃったんです。



















































俺の、センラの恋人の志麻くんが死んじゃった」


ひゅっと 息の詰まる音がした

恋人の、俺?

呆然としている俺とは反対にセンラさんは
ぽつぽつと涙をあふれされながら言葉を続けた

「志麻くん、記憶が曖昧って言ってたでしょう? それ、具体的に何処までの範囲で曖昧なのか...忘れているのか分かりますか?」

「いや...」

寧ろ1年間忘れている事にも気づかないほど、何不自由してこなった。

一体何を、

そう思い見上げると彼は悲しそうに笑った

「志麻くんの忘れてる期間は恐らく3週間です。

...その事故の3週間前、







センラと志麻くんは恋人になりました。」


...センラさんと俺が付き合ってた?

しかも1年も前に?

そして






それを俺は忘れてしまっていたのか?

ただどうすればいいのか、何が正しいのか分からず、彼の続きの言葉を待った。



「1年と3週間前、 志麻くんから告白されました。

突然でびっくりしたけど、
ただ嬉しかった。

それから、センラは早めに春休みを貰ってたから志麻くんと何回かデートしました。

スイーツを食べに行ったり、買い物に行ったり、



黄色と紫のお揃いのマグカップを買ったり、

その間、志麻くんの家にお邪魔してました。」



少しずつパズルが埋まっていく。

数回しか来たことがないはずのセンラさんが迷わずに、分かりずらい場所にある洗面台に行けたこと

俺が普段使ってるマグカップに何故かお揃いの黄色いマグカップがあったこと

センラさんといる時間が何処か、懐かしかったこと。

俺とセンラさんが恋人だったと言う事実を思い出せと言わんばかりの違和感に、如何して気づかなかったんだろうか。

あと、それから

「じゃあ... もしかして俺と遊びに行く時に選んでたお店は、俺と
恋人だった志麻と行く予定だった所やったん?」

甘いのが得意でないセンラさんが選んだスイーツのお店、男友達同士が行く場所としては珍しかった。

「そうですよ... 来週はここ行こうねって
話してたんやけどね」

一年越しになっちゃった。

そう笑うセンラさんが自嘲気味な笑顔だったから
苦しくて、悲しかった

「それで、
センラさんは志麻と別れたいん?」

その別れは彼自身の為?

もしくはセンラさんの恋人だった「俺」の為?

それとも
もしも今の志麻の為だと言うのならば...

「...はい。






もう、志麻くんの邪魔はしたくないんです。」

「...邪魔って?」

「こういう事全部ですよ。
経った3週間付き合っただけの、同性の恋人を1年も思い続けて
挙句また同じ事をして






もしセンラが側に居なかったら志麻くんは怪我をしなかったかもしれない。

もしセンラがあの日付き合うのを断っていたら、そもそも忘れることすらなかったかもしれない。

もしセンラが志麻くんと出会わなかったら

「ストップセンラさん」




もういいよ。 苦しかったよな、1人で抱え続けて

それでもずっと思い続けてくれて









また志麻と恋人になってくれてありがとう



「俺はセンラさんと付き合った事、1度も後悔してない。 ずっと幸せで、一緒にいれて嬉しかった

俺は忘れても、やり直しても、何度だってセンラさんを好きになる。







何度だってセンラさんに愛してるって言ってやる。
やから












俺の恋心を死んだ事にしないで。」

センラさんの服を掴み、スーツの上を脱がしていく。
これを着てたら死を弔う喪服になってしまうから

代わりに俺のコートを被せ、そっと抱きしめた

「センラさん、 ずっと待っててくれてありがとう。

愛してくれてありがとう」

だからもう、泣かないで


「センラさんを一生、 愛させてよ」

ぶわっと溢れる涙を今度は抱きしめて支えて、

貴方が泣き止むまでずっと側にいるから。

また笑顔で隣で笑ってください。









2人で手を繋ぎながら家に帰った

センラさんからはまだ返事を貰っていない

それでも、もう良かった。
これからは俺が彼を支えて、愛し続けていけばいい。

もう1人で苦しませなんて絶対にしない。

二人とも朝ごはんを食べる気にもなれなくてお湯を沸かし、コーヒーを入れた

黄色いマグカップにはコーヒーを7部目まで、紫のマグカップには半分まで入れてミルクを足す

それから砂糖は

『センラ甘いのは苦手だけど、ほんの少しだけ、幸せの分の砂糖をティースプーンに1杯

優しく入れてくれたら嬉しいです』
















懐かしい、どこかで聞き覚えのある言葉が頭に響いた。

あの言葉はいつの時のだっただろうか、
思い出せ、思い出せと頭の中で誰かが叫んでいる

あれは確かセンラさんがたくさん泣いたあと







































俺が初めて告白した日(1年前の日)だ。

あの日もこうやってコーヒーを入れながら話してたんだ。

『センラさん、ほんま嫁に欲しいわー』

『なんやそれ笑 ...でも志麻くんの嫁ならなってもええわ』

『ほんまに?!

俺、
センラさんの事が好きです。

センラさんの事一生愛するので付き合ってください。』

『なんやそれ、 そんな幸せな事あるんやね...』

『泣かんとってや。 俺センラさんの涙には弱いんよ』

『じゃあ、コーヒーに砂糖はティースプーン1杯 入れてください。

そしたら幸せで満たされて涙も止まっちゃいます。』

黄色いマグカップに7部目までコーヒーを入れて、砂糖はティースプーン1杯

「センラさん、 これでもう泣かないでくれる?」





コーヒーを口付けた彼は一瞬驚いたような顔をしてそしてまたポロポロと泣き始めた。

あぁダメじゃないか、きっと彼には1杯の愛だけじゃ足りない。

ずっと沢山愛して幸せでいっぱいにするから

だから

「泣かないで」

そう言って涙を拭うと、彼はそっと顔を上げ

幸せそうな顔をして笑って言った









「今度はもう、忘れないでね」





一杯の砂糖も、甘い記憶も、センラのことも全部、



どうか


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